戦国武将・武者人形の戦国堂
2006年9月に第一回の原稿を仕上げてから、半年が経ってしまいました。まさに「光陰矢の如し」。平凡すぎる人生を送っている現代の私のような者ですらそう感じるのですから、「人生50年」と言われ激動の戦国時代を生き抜いた武将達の一生は、それこそあっという間だったのでしょう。
私は、暇さえあれば歴史小説を読んでいるような人間ですが、私自身の好みとは別に、何か小説に取り上げられている時代やテーマに偏りがあるような感じを、漠然とですが、ずっと受けていました。私の好きな戦国時代に題材をとった小説などは、すぐに読み尽くしてしまうのです。小説にしろ、映画、歴史ドラマの類にしろ、商業べ−スで作られている以上、読者や視聴者のニーズを反映しているはず、あるいは面白い題材が時代に偏在しているためなのか、日頃気になっていた疑問を取り上げ、下記にささやかな検証を試みてみました。

2007年3月14日(2013年2月6日修正・加筆)
「日本史におけるロマンの時代 -NHK大河ドラマにみる人気テーマ-」

 作家の海音寺潮五郎さんが、その作品「天と地と」でこんなあとがきを残されています。
「ぼくは源平争覇の後、楠木正成を中心にした物語、川中島合戦を中心にした甲越両雄の争戦、織田・豊臣・徳川の権力交代の物語、赤穂浪士の物語、明治維新の話、この六つを日本民族のもつ六大ロマンスであると思っている。---(冒頭抜粋、原文のママ)」。確かに歴史小説マニアの私がこれまでに読んできた作品も、日清戦争以降太平洋戦争に至るまでの日本の軍国主義の伸長に題材を採ったものを除けば、そのほとんどすべてが、海音寺さんの説く六つのロマンスに集約されてしまいます。

 もっとも一般的で影響力のあると思われるNHKの大河ドラマにこの説があてはまるのか、興味を持ち調べてみました。

NHK大河ドラマの取扱いテーマ
放送年 タイトル 源平争乱 楠木正成
太平記
川中島
甲越両雄
織田・豊臣
・徳川
赤穂浪士 幕末・
明治維新
その他
53 2014 軍師官兵衛
52 2013 八重の桜
51 2012 平清盛
50 2011 江 -姫たちの戦国-
49 2010 龍馬伝
48 2009 天地人
47 2008 篤姫
46 2007 風林火山
45 2006 功名が辻
44 2005 義経
43 2004 新撰組!
42 2003 武蔵 MUSASHI
41 2002 利家とまつ
40 2001 北条時宗
39 2000 葵 徳川三代
38 1999 元禄繚乱
37 1998 徳川慶喜
36 1997 毛利元就
35 1996 秀吉
34 1995 八代将軍吉宗
33 1994 花の乱
32 1993後 炎立つ
31 1993前 琉球の風
30 1992 信長
29 1991 太平記
28 1990 翔ぶが如く
27 1989 春日局
26 1988 武田信玄
25 1987 独眼流政宗
24 1986 いのち
23 1985 春の波涛
22 1984 山河燃ゆ
21 1983 徳川家康
20 1982 峠の群像
19 1981 おんな太閤記
18 1980 獅子の時代
17 1979 草燃える
16 1978 黄金の日々
15 1977 花神
14 1976 風と雲と虹と
13 1975 元禄太平記
12 1974 勝海舟
11 1973 国盗り物語
10 1972 新・平家物語
9 1971 春の坂道
8 1970 樅の木は残った
7 1969 天と地と
6 1968 竜馬がゆく
5 1967 三姉妹
4 1966 源義経
3 1965 太閤記
2 1964 赤穂浪士
1 1963 花の生涯
件数 5 1 3 15 4 13 12
比率 9.4% 1.8% 5.6% 28.3% 7.5% 24.5% 22.6%
※上表において、◎は時代・テーマとも合致するもの、○はほぼ合致するもの、△は一部合致するもの、●は六大ロマンスに合致せずその他に分類されるものを示す。例えば2006年放映の「功名が辻」は、織田・豊臣・徳川の区分に時代・テーマとも合致するが、山内一豊の妻千代という当事者ではない主人公の眼を通して描かれたドラマであるため○としている。

織田信長 結果は上表の通り、過去の大河ドラマ作品中実に8割近くが六大ロマンスに関係しており、はからずも海音寺説が例証された形です。目立つのは、織田・豊臣・徳川の権力交代の物語(15件=28.3%)と、幕末・明治維新の話(=24.5%)ですが、やはり大きな時代の変わり目で、スケールの大きい人物がキラ星の如く登場し、権力を争い覇を競った時代ならではの魅力がその原因でしょう。
 ちなみに、私の大好きな戦国時代に関連する作品は、川中島合戦を中心にした甲越両雄の争戦(3件=5.6%)と織田・豊臣・徳川の権力交代の物語(15件=28.3%)、さらに「毛利元就」の1件を加えて合計19件、割合にして35.8%と、実に3年に1回以上は、何かしら戦国時代を扱った作品が放映されている計算になります。
 意外だったのは、楠木正成を中心にした物語(太平記の時代)作品が1つしかなかったこと。戦前の皇国史観のもとでは、楠木正成は理想の忠臣として描かれ、絵本や教科書によく登場していたそうですが、戦前の教育を受けた海音寺潮五郎(1901〜1977)さんの印象では、大いなるロマンスの一時代だったのでしょう。ちなみに、上杉謙信と武田信玄の川中島での一騎打ちのシーンも昔の絵本ではよく描かれており私の記憶にも鮮明に残っていますが、最近の絵本では、もっぱら海外物の題材ばかりでまったく見られなくなっています。

 大河ドラマの第一回からの放映作品をじっくり見ていくと、日本の歴史の中で、大きくポッカリと抜け落ちている時代が2つほどあることに気づきます。一つは日清戦争以降の近現代史、もう一つは奈良時代以前の古代史です。前者の方は、日本の軍国主義という非常にデリケートな問題に触れざるを得ず、現在の近隣諸国との関係を考えたら公共放送として扱うことのリスクが大き過ぎるというのが真相でしょう。
 では、後者がない理由は何でしょうか。一番の理由は、原作がない、つまり古代史を扱った小説がほとんどないことでしょうし、それはつまりは正確で信憑性の高い資料に乏しいということでしょう(新しい資料が発見され学説が180度変わってしまったりもしますし・・・)。邪馬台国や大和朝廷の成立、蘇我・物部氏の争い、聖徳太子の偉業、壬申の乱、空海と最澄の生涯などざっと思いつくだけでも、争乱あり恋あり政治的駆け引きありの面白い人間模様が描けそうな気がしますが、ほとんどフィクション(=つくりもの)の領域で歴史ドラマとしてはふさわしくないということなのでしょうか。夢のような話と笑われそうですが、私自身いつかはこの歴史小説上の空白の時代=古代史にテーマを見つけ小説に取り上げてみたい、とも思っています。


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